聖殿の中庭を、清らかな旋律が満たしている。






 黄金の昼下がり 






中庭の中央の花壇を囲む白いレンガに腰掛け、リュミエールが竪琴を奏でていた。
その細く長い指が弦の上を滑るたびに、美しい音の波が、周囲に広がっていく。

花も、降り注ぐ昼の日差しも、羽を休める鳥達も、その音色に耳を傾けているような。
静かだが、穏やかさに満ちた空間。

神鳥の聖地、聖殿の中庭の昼下がり…。



「きゃあっ!」

その静寂を破ったのは、なんとも可愛らしい悲鳴だった。
ふ…と旋律が途切れ、リュミエールが顔を上げた。
聖殿へと続く階段に据え付けられた、豪奢な彫りの施された白い円柱に、声の主がしがみついていた。おそらくは、リュミエールの奏でるメロディに誘われ中庭に踏み出したところで階段を踏み外し、転びそうになったのであろう。
転ばずにすんだ事に安堵の息をこぼし、そして、ふと微笑んで。
リュミエールは声をかける。

「大丈夫ですか? 陛下」
「うん、なんとか…大丈夫かも」

鈴を振るような愛らしい声。やわらかい金の髪をふわりと肩に躍らせながら、少女は円柱から手を離し、リュミエールのもとへと駆け寄った。

「リュミエールの竪琴が聞こえたから、もっと近くで聴きたくて…ごめんなさい、じゃまするつもりじゃなかったのよ?」
「知っておりますよ、陛下」

必死に言いつくろう姿が可愛らしく、リュミエールは微笑む。彼のフォローに安心して微笑む姿がまた、可愛らしくて、いとおしくて…。
竪琴を持ち直すと、少女は顔を輝かせてリュミエールの隣に腰掛ける。
その安心しきった姿に、さらに愛しさを募らせながら、リュミエールの指が、再び竪琴の弦の上をすべり始めた。

少女の悲鳴に驚いて、一度は空に逃れた鳥達が、再び集まってくる。
二人の足元で羽を休める姿に、少女が嬉しそうに微笑み、そんな彼女の姿に、リュミエールも目を細める。

優しい音色とともに、穏やかな時間が流れていく…。



「・・・−ク、アンジェリーク!」
「あっ!」

聞き覚えのある声が近づいてくる。リュミエールの竪琴の音が途切れ、鳥達が再び空へと散ってしまった。
しかし、それを気にする余裕も無い様子で、少女があわててリュミエールの背後の茂みに見を隠す。
何も言わぬまま、リュミエールは小さな吐息を落とした。
やがて。

「…あら、リュミエール。ごきげんよう」

先ほど少女が出てきた階段から、ロザリアが姿を現した。
リュミエールに自分の大声を聞かれたことを恥じてか、少し頬が赤らんだが、それも一瞬。すぐに平常の笑みに戻り、ドレスの裾を軽くつまんで優雅に一礼できるあたりはさすがである。

「ごきげんよう、ロザリア。どうしたのですか? そんなにあわてて…」
「失礼、みっともないところをお見せしてしまいましたわね。ああ、リュミエール、聞いてくださいな。あの子ったら、また!」

リュミエールから苦笑がもれる。

「また…ですか」
「また、ですわ。いくら今日の執務を終えたからって、簡単にあちこち出歩かれては困りますのに!」

かつて金の髪の少女と女王の座を争い、今は女王補佐官として少女を支える才色兼備の少女は、ため息混じりに眉間に指をあてた。
その仕草にすら気品を漂わせるロザリアに、ほほえましく思いながらも、瞼を閉じることでリュミエールは笑みを隠す。

「心当たりは? ロザリア?」
「ここくらいでしたもの。困りましたわ…」
「そうですね…確かに陛下は、明るくて、緑の多い場所を好まれますね」

ロザリアが考え込む。

「ふつ〜〜〜に、人込みに紛れ込むのも好きですわね。
…やっぱり外かしら、ほんとにあの子は…」

ふ…とため息を落とし、…はっとリュミエールの視線に気付いて、ロザリアは少し恥かし気に居住まいを正した。

「失礼、お邪魔してしまって。どうぞお続けになってくださいな」
「ええ…ロザリアも、お気をつけて」

ゆったりと微笑むリュミエールに、ロザリアも美しい微笑を返す。
再び、ドレスの裾を軽くつまんで一礼し、足取りも優雅に踵を返し、中庭を去っていった。

…足音が遠のいた事を確認してから、リュミエールは竪琴に指を滑らせ始めた。

清らかな旋律が、再び辺りを満たし始める。
どこからか小鳥達が舞い戻り、くるくると踊ってから枝葉に居場所を確保する。
柔らかい日差しの下、再び花々も聞き耳を立てる中。

なるべく旋律を邪魔しないように気をつけながら、背後の茂みをかき分けて、騒ぎの中心にいるはずの少女が姿を現した。
いたずらっ子のようにぺろりと舌を出しながら、いそいそとリュミエールの隣の特等席に腰をおろす。
腕の動きを邪魔しない程度に、リュミエールの肩に頭を預けて。

ふ…と笑みを浮かべ、リュミエールは少し時間をかけて、一曲を奏で上げたのだった。


「アンジェリーク」

美しい余韻と共に終わった曲の後味を追いかけて、うっとりと目を閉じていた少女の顔を覗き込みながら、リュミエールはそっと名前を呼んだ。

「きゃっ」

それこそ、吐息がまつげにかかるくらいに近くから声をかけられて。
目を開ければすぐ間近に澄んだ水色の瞳が迫っていて。
少女が可愛らしい悲鳴を上げた。
思わず離れようとする細い身体を、逆にするりと抱き寄せて、鼻の先がつきそうなくらいに顔を近づける。
少女が、顔を真っ赤に染め上げるのが、可愛らしくて仕方がない。

「いけない方ですね。また、ロザリアを困らせて…」

空いているほうの手を少女の頭に伸ばし、金の髪にくっついた一枚の葉を、細い指先でそっと摘み上げる。
少女の目の前でくるくると回して見せると、少女はむぅっと頬を膨らませて見せた。

「リュミエールだって…」
「おや…私は、彼女を困らせるような事は、何も言ってはおりませんよ?」

あれ? と首をかしげる少女の唇に、ちゅ、と軽く口付ける。
わずかな間の後に唇を離すと、少女はうっとりと目を細め、更なる口付けを求めて唇を差し出す。
くす…と微笑み、口付けを返す。
少女が求めるままに。
自分が求めるままに。

「貴女が、可愛らしいから…」

少女の身体をさらに深く懐に抱き込んで。


独り占めしたくなるんです。


耳元で囁かれた言葉に、少女は再び、顔を真っ赤に染めたのだった。







リュミエール×リモージュでした〜
なにやらリュミ様がいい性格に・・・(笑)
理想入りまくり? いや、むしろこれが本性だと思う私。
目指せいちゃいちゃで書き始めましたが、何とか達成かな?
リュミ様は長らく一番好きなキャラなので、思い入れも強いですね。
ネタがあればまた書くかも♪


2006/12/09

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