首筋にかかる、死神の鎌の感触を、覚えている。

『お前か?』

のしかかる、物理的な重圧を伴う霊圧の中。

見上げた視界に映る、男のシルエットの中の、ぎらついた眼差しを覚えている。



次の瞬間の。

自分の胸を貫く刃の感触を、覚えている。






囚われの






稽古場に顔を出すだけのつもりだった。
それなのに、一角の挑発につい乗ってしまい、斬月に手を伸ばしてしまったのがいけなかったのだ。
もちろん、本当に抜くつもりはなかったのだが…。

「おう、一護。…やる気まんまんじゃねぇか」

いつの間に、そこにいたのか。
地を這うような、…とても、嬉しそうな声。
…冗談じゃない。
2度と、この男と刃を交わすのはごめんである。

前にも、こんな事あったような…。
思い出す間もなく、稽古場の窓から逃走を図っていた。




そこから続く追いかけっこは、かれこれ10分近くが経とうとしている。

「待ちやがれ一護っ!!」
「やなこったっ!!」
最初にいた十一番隊舎は、とっくの昔に遥かに後方。
いくつも角を折れ曲がり、細道を通り抜け、…今、自分が何処を走っているのかなんて、一護自身にもわかりはしない。
ただ、確実にわかるのは。
(立ち止まるわけにも、追いつかれるわけにもいかねぇっ…!!)
大きく膨れ上がった、歓喜を伴う霊圧が、背後から迫る。それだけで押しつぶされてしまいそうなのに。

一護と戦う事。それこそ命をかけて一護と斬り合う事しか、考えていないのだ。今、一護を追いまわす、あの男は。
(こんだけ全力疾走してるっつーのに、どういう体力してやがるあの野郎っ!!)
自分の事は棚に上げて、追ってくる相手を心の中で毒づく。

飛ぶように流れる景色。
全身の筋肉をしならせて、迫る壁を飛び越える。
人間界では到底無理な高さも、霊圧が物を言うこの尺魂界、一護にとっては少し高めの縁石みたいなものだ。
(それでも、壁は壁…!!)
壁越しに迫る修羅の霊圧を確認しながら、一護は瞬時に周囲を把握する。
目標着地地点は舗装された路面。右手と前方に大きな道。…左手に、薄暗い小道っ!!

判断は瞬時に全身に伝わる。
着地と同時に方向を変え、左手の小道に走り込む。同時に霊圧を押さえ込み、薄暗い小道の奥へと速度を落とさぬまま進んでいく。
一瞬の後に後方で、強大な霊圧が、今自分が飛び越えた壁の上に舞うのを感じた。しかし、前方に己の求める姿を確認できなかったためだろう、着地と同時にたたらを踏んでいるのがわかる。
(よしっ…!!)
ほんの一瞬でも、壁は目隠しになる。一護の読みは、的を得ていた。
己の発する霊圧を最小限に抑えながら、びりびりと響くような霊圧から少しでも逃れるべく、一護は走り続けた。


つもりだったのに。


前方に見えた藁を積んだ台車が、前置きもなく横っ飛びに吹き飛ぶのを見て、一護は急停止した。
「…っ!!」
舞い上がる砂埃と藁から目をかばおうとして、一瞬瞼を閉じた、瞬間。

自分の首筋に迫る、死神の鎌の幻影が見えた。

「くそおっ!!」
瞬時に背中の斬月を抜き放ち、勘だけで迫る殺気を迎え撃つ。
砂埃の中で視界は役に立たず、ぴしぴしと顔に当たる藁に集中力を削がれてしまう。
それでも、斬月は確実に、重い衝撃を受け止めていた。

激しくぶつかり合う刃と刃の衝撃に、視界を塞いでいた藁と埃が霧散する。一瞬にしてクリアになった一護の視界に飛び込んできたのは…交差して重なり合った刃の向こうの、修羅の笑み。

台車を吹き飛ばした、その瞬間に、もう迫っていたのだ。

「よお…久しぶりだなぁ」
ニタァ…と、それは、笑う。
同時に膨れ上がる、霊圧と、


殺気。


「てめぇ…っ」
つ…と頬から顎へとつたう冷や汗を自覚する事も出来ぬまま、一護も笑う。
ぎちぎちと触れ合う刃の音。
体格差を考えれば、一護の身体は吹っ飛ばされていてもおかしくない。持ちこたえられるのは、全開の霊圧で相手の刀を受け止めているからだ。
「本気で殺(や)る気かよ…っ!!」
「そうでもしきゃ…」
唇の端が、裂けるように持ち上がる。
「てめぇが本気を出さねぇだろうが」
射抜くなんて、生易しいもんじゃない。今にも頭蓋を打ち砕かれそうな視線を真正面から受け止めながら、背中を這い上がりそうになる恐怖を必死に押さえ込む。
今、恐怖を微塵にも感じてしまえば。

(殺される)

霊圧を練り、斬月を握る手に伝える。
力任せのつばぜり合いは、自分に不利だ。
一瞬でも早く、はじき返した方が、反撃の糸口を掴みやすい。
「…くだらねぇ小細工はすんな」
吹き荒れる霊圧のわずかに先の、修羅の言葉に、一護はかすかな違和感に気がついた。

「何で」

「あん?」

「何で俺の居場所がわかったんだ…?」


霊圧を感知する能力は、低いはずだった。
霊圧を殺して移動しようとした自分の前に、

どうやって、この男は回り込んだ?


「くだらねぇ事、聞くんじゃねぇよ、一護」

はっ…とせせら笑い、そいつは。

「わかるんだよ、一護」

まるで、最終死刑執行人のように。

「お前だけは」

気付きたくなかった…否、気付かないふりをしていた、一護の奥の感情を容赦なく揺さぶる。




「逃げらんねー…って、わけ?」

「逃がさねぇよ」




出会った瞬間の、胸を貫く刃の感触を、思い出す。

幻で済ますには、あまりにも生々しい。




思えばあの瞬間に、この心は貫かれ、

とっくに、囚われていたのかもしれない。




逃げる事すら許してくれないこの男への、

逃れ様もない、思いに。

















…ええと、すみません…終わりです(焦)
私なりに精一杯、剣八×一護を追求してみました。
やはり、この二人の関係は、あの邂逅の瞬間に始まったわけですから…。

文章書きではない人間が書いたため、文章ぐだぐだです。
一応、剣八の名前を本文では一回も出さないってのが、ちょっとこだわり…こだわり方が、自分でわけわかりません(泣笑)
て言うか、原作で一護は逃げ切ってます…わかっているんだけど、書きたくて…。

お気に入りの剣一サイト天獄様の10000打祝いに書いたつもりが、思いっきり時期も外してるし…。

忠勝様、こんな駄作をお受け取りいただき、本当にありがとうございました!!(激謝!!)


2006/12/09

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